8: 現実を生きる覚悟とは

ついに、診察室へ呼ばれた。

若い男の先生だった。

その先生も事情はすでに把握していて、

とにかく診てみましょう。と言った。

今までに見たどんな病院よりも

整った設備。

見たこともない機械。

エコーの画面は、壁の上方にある

大きなモニターに映し出され、

付き添いのダンナさんも、助産師さんも

正確に見られるようになっている。

私は、もう何度も見てきたエコーだけど、

ダンナさんは数回しか見たことがない。

息子がこんな状況になってからは

まだ一度も見ていなかった。

素人が見たところで

何が分かるわけでもないけれど、

希望に満ちて見るのと、

不安に押されて見るのとは、

言葉にならない感情が湧いてくるものだ。

先生はエコーを見ながら、

「あぁ・・・」

「あぁ・・・・」

と言葉にならない言葉を発していて、

それがもう私の胸を締め付けた。

私達がこれから向かう現実への

覚悟はしているつもりだった。

何を言われても受け入れないといけない覚悟。

そして、現実を生きる覚悟。

でも、今私を襲ったのは、

全然違う感情だった。

ダンナさんがエコーを見て、

何を感じたのかは分からない。

モニターをじっと見つめていた。

涙を溜めているように見えた。

横で先生がうめいている。

私は、息子がどうのではなく、

この光景に胸が締め付けられて、

顔をそらした。

それ以上モニターもダンナさんも

先生も見ていられなかった。

そらせた目線の先で、

助産師さんがそっと涙を拭いていた。

周りの人達をこんなにも悲しませている。

なんという現実なんだ。。。

「たましいのおうち」について

木工作家の多胡歩未が、自身の経験から、子どもを亡くしたご家族が前を向いて生きていくための、家族の「かたち」を一緒に考え、オーダーメイドで作ります。

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