21: もう逝ってしまったのか・・・

息子は、産声を上げずに

足から出て来た。

「産まれましたよ。

小児科の先生に見てもらいますね。」

と、分娩室内で待機していた、

小児科医の所へ回った。

ダンナさんは、ずっと横でみていた。

それから、小児科の先生は、

息子を私のところへ連れてきた。

私は、産まれてきた事がうれしくて

感謝でいっぱいだった。

息子にひたすら

「ありがとう。

産まれて来てくれてありがとう」

とても大きな声で言っていた。

ふいに、主治医の女医さんが、

涙ぐんでいるのが見えた。

それで、私はまた現実に戻った。

この子は、今生きているの??

ダンナさんに聞いた。

涙ぐんでいたけれど、

笑っていた。

そして首を横に振った。

そうか。

もう逝ってしまったのか。

小児科の先生に聞いた。

「どれぐらい生きていましたか?」

「数秒だったと思います。

立派でしたよ。」

ほんとうにありがたかった。


臍帯は首に2重に巻き付いていたらしい。

でも、ちゃんと生きて産まれてきた。

自分で決めて、出てきたのだ。

なんという子なのだ。

私達は、とても幸せだった。

息子は生きていないにも関わらず、

とても満ち足りた気分だった。

なにはともあれ、やっと出会えた。

そして、ありがとう。

そこには現実を超越した何かがあった。

「たましいのおうち」について

木工作家の多胡歩未が、自身の経験から、子どもを亡くしたご家族が前を向いて生きていくための、家族の「かたち」を一緒に考え、オーダーメイドで作ります。

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